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「給料が安い」ことや「仕事が多い」ことで悩んでいる保育士は多いですね。保育士は重労働なのに割に合わない仕事だと言われますが、どう割に合わないか考えたことありますか?
数年前にホリエモンが、保育士の給料が低い理由は「誰でもできる仕事だから」と言って炎上しました。この発言を見た多くの保育士は同じことを思ったはず。
ただ冷静に考えると、現役保育士なら保育業界に問題があって「誰でもできる仕事だから」という発言につながることに気付くはずです。
保育士の給料が他の仕事と比べて安いこと、保育士の仕事量が割に合わないことには理由があります。そこで今回は、保育士の待遇や業務の改善ために何が必要かを考えてみます。
保育士、幼稚園教諭、保育教諭歴20年以上。幼稚園、保育園、認定こども園など転職して述べ500人以上の園児を保育し、保護者の相談に答えてきました。両親・祖母が教師・保育士なので、保育士は多分天職です。
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なぜ保育士の給料は上がらないの?
保育士が重労働で給料が安いというイメージが定着したからか、世間では保育業界以外からも「保育士の給料を上げてやれー!」などの声が上がっていて、ありがたい限りです。
ただ、今の体制で保育士の給料を一般企業並みに上げることは難しいですね。
今保育士資格を持つ現役保育士は40万人ほど。足りない保育士は7-10万人ほどと言われてるので、仮にこの50万人の給料を女性労働者の平均年収370万円まで上げると、
(40万人×50万円)+(10万人×370万円)=5700億円
保育補助や幼稚園教諭、支援センター職員など保育関連従事者の給料もベースアップすると、7000-8000億円以上は必要だと思います。これは誰が払うんでしょうか……。
まさか「保育士の給料上げるんで、保育無償化はやめてこれまでの保育料+月2万円徴収します。」が通るなんて思えません。税金で賄うのもいっしょ。保育士に使う税金のしわ寄せはどこかに起こります。
今は保育士にスポットライトが当たってますが、介護士、栄養士なども給料が安いですね。これ以上保育士の給料を税金で上げたら、他の給料が安い仕事はどうすれば良いのでしょうか。
重要な仕事だから給料が高いわけじゃない
もちろん、わたしも給料が高い方が嬉しいです。今はパート扱いなので、時給が上がると「ねぇ、時給上がったよ!」と夫に報告します。
ただ重労働だから給料が高くなる、責任が重いから給料が高くなるとは思いません。医者や証券マンの年収が高いのは重労働だからでも、責任が重いからでもなく、お金を払うだけの価値があるからです。
もし保育士の資格が弁護士並みに難しくて、保育園の数が今の10分の1なら保育士は希少な職業になりますし、そこに子供を預ける人はたくさんお金を払って預けます。
今保育料が月20万円になったら、ほとんどの人は子供を保育園に預けませんよね。でも、月給100万円のワーキングマザーなら預けると思います。
需要と供給を考えると、それが普通です。認可保育園は保育料が月2-4万円ほど(今はほぼ無償)ですが、子供1人を120-160時間預けて月2-4万円って普通に考えておかしいですよね。
保育士の本来の仕事の役割って何?
保育士の仕事は子供を適切な距離感で見守り、生活の基礎を教えたり、感性を高める触れ合いを通して子供の成長を促すことです。でも、それって親でもできますよね。
というか、当然親の方がより深い愛情を持って子供に接しています。保護者は、子供を適切に育てる保育のプロだから保育園に預けるわけじゃなく、自分の時間を作るために預けるわけです。
なので、保育士の仕事の本質、保育士の役割は「子供を安全に預かること」です。
保育士の仕事の本質に支払う価値が月2-4万円なら、子供を安全に預かる以外の仕事はすべてオプションになるはずです。ところが保育士の仕事はとても多く、保育料と仕事量が見合ってません。
- 子供の保育
- 日案・週案などの作成
- 日誌や園児の連絡帳の記載
- 行事などの準備や各種制作
- 保護者からの相談対応
- 保育室の掃除や片づけ
- 研修などの出席
……挙げるとキリがありません。また、アレルギーや障害児対応の増加、虐待や貧困の増加など保育ニーズの多様化のため、保育自体の負担も増えています。
大規模保育園ならどこでも加配保育士の設置が求められています。親の気持ちになれば必要な人材ですが、やはり保育士に負担がかかることは間違いありません。
このように需要と供給、保育料と保育士の仕事量が合わない歪んだ構造なのは保育業界が税金で成り立っているからです。
現在の保育士の仕事は無駄だらけ?
以下は厚生労働省調べの保育士の業務時間ですが、これを見て納得する保育士ってどれくらいいますか?
これってあくまでも正規の労働時間をそれぞれの業務に振り分けたものにしか見えません。
たとえば、「保育の計画・準備・調整」「保育の記録」「連絡帳」はもっと時間がかかります。仕事時間内でできないので、持ち帰りでやります。
しかも、まだ手書きの保育園も多いです。手書きだと前年担任の記録は書き写すしかないです。また基本の保育方針は決まってるのに、なぜか自分の言葉で計画を立てないといけません。
保育士同士の伝達や保育園の会議、研修、保護者対応も上の表には入ってません。何よりも1番時間がかかる行事の準備がありません。
保育参観や敬老の日の参観、運動会、保護者会、お誕生日会、七夕会、お泊り保育、おいも掘り、発表会、クリスマス会、節分、ひな祭り、遠足、お別れ遠足はあったら楽しいですね。
わたしも親の立場だとあったら楽しいですし、子供の保育園での生活は気になりますが、「子供を安全に預かること」という本質ではない気がします。
保育業界を変えるには効率化と無駄の削減!
まず保育業界がやるべきことは、子供を安全に預かることです。どの家庭も子供を保育園に入れたい、誰かに預かって欲しいと思ってます。それを叶えることが1番の目的です。
子供を預かる保育士を増やすには待遇改善が必要です。ただ、保育士の給料が劇的に上がることはありません。なぜなら、お金を払う人がいないからです。
給料の改善が難しいなら、仕事内容を見直すしかないです。保育士の仕事を効率化して無駄な仕事をなくし、多くの保育士が余裕を持って働ける業界に変えるしかないと思います。
- 記録や書き物はITを取り入れてもっと効率化する
- 行事は減らしてその分日々の保育に力を入れる
- 保育士は基本短時間労働にして仕事時間を明確にする
記録や書き物はITを取り入れてもっと効率化する
記録や書き物は手書きをやめて、ITを使って効率化できます。手書きなのは、「昔からの決まりだから」「PCを使えない人がいるから」ですよね。
ただ、文章を書かずにチェックシートにできる部分もありますし、保育計画もデータで残せばもっと使いやすくできます。
お名前表などエクセルを使っている保育園もありますが、みんな独自のやり方なので引き継ぐとほぼやり直しです。認可保育園くらいは、記録や書き物の公式テンプレートがあっても良いと思います。
行事は減らしてその分日々の保育に力を入れる
行事が無駄だとは思いません。運動会や発表会は子供の感性を豊かにしますし、お泊り保育や遠足は新しい体験になります。ただ「子供を安全に預かること」とは違うので、望む人は行事をする保育園に預ければ良いと思います。
日々の保育を充実させるため、子供を安全に預かるため、また保育士不足を防ぐにはある程度行事を減らすべきです。なくしても問題ない行事を検討した方が良いですね。
以前は壁面制作はやって当然でしたし、「壁面制作は大事!」という保育士もいました。今は壁面制作をする保育園は徐々に減ってます。つまり、やろうと思えば行事だって削減できるんです。
保育士は基本短時間労働にして仕事時間を明確にする
保育補助やパート保育士は、他の仕事のパート・アルバイトと時給が変わりません。ところが保育士資格を持つ潜在保育士は70万人もいて、スーパーやコンビニでパートをする人もいます。
なぜ保育士をしないかと言うと、子供を預かる責任が重いうえに責任を盾にした残業があるからです。
基本的にパート保育士も正規保育士も仕事内容は変わりません。書き物や行事の準備もしますし、一部で担任をする人もいます。時間外労働がない代わりに、持ち帰りが普通にあります。
子供が好きで保育士になりたいと思った人でも、現実を知って途中で諦める人がいて当然だと思います。
今の保育士の無駄な仕事や行事を減らして勤務時間を短くすれば、使える時間も明確になりますし、時間内は責任を持った保育ができます。
保育士単体では十分な給料をもらえなくても、時間があればダブルワークもできますね。
保育士は保育業界の問題をわかってます
ある程度経験がある保育士なら、保育業界の問題点を理解しています。保育士個人ができる時間短縮や業務効率化に限界があること、何をしても給料が劇的に上がらないこともわかってます。
でも今保育士を続ける人は子供が好きで、子供の成長に責任と期待を持って仕事をしてるんです。
政治家や行政が保育業界にテコ入れをする方法はほとんどが税金の投入ですが、それでは保育士が抱えている無駄な仕事はなくなりません。下手をすると保育士が世間から反感を買います。
多くの保育士は効率が悪い仕事をする代わりに給料を上げて欲しいんじゃなく、給料は変わらなくても短時間で効率的に仕事して、より質の高い保育に力を注ぎたいんじゃないかと思います。
保育士全体の待遇が良くない中でも、保育士が働きやすい環境を作ろうとしている保育園もたくさんあります。保育士の求人票を見ると、保育園によって待遇が全然違うことに気付きます。
現状を悲観するだけじゃなく、しっかりと周りを見渡してください。たとえば、企業内保育所や新しい小規模保育園はICT化が進んでいて、効率が良い保育環境を整えていることが多いです。
そういう環境で働く保育士が増えれば、古い体質の保育園は変わらざるを得ません。
保育士の転職が増えれば保育現場は変わる
保育士がより働きやすく待遇が良い環境を求めて転職することが当たり前になれば、古い保育園には保育士が集まらなくなります。
保育士が集まらない保育園は、保育を効率化し保育士の待遇を改善しないと運営が回らなくなります。そのため、転職で保育士の流動性が高まることが保育業界の改善につながるわけです。
という人は以下を参考にしてください。転職した方が良いか、しない方が良いかは真剣に考えてから決めないと後悔することになります。
もちろん保育士の流動性が高まっても、保育士全体の待遇がすぐに劇的に変わることはありません。また、保育士の仕事に嫌気が差して他の仕事に転職する人もいます。
今の保育園に不満がある人は保育士の将来を考えてくれる保育園に転職するか、異業種に転職するかを考えてください。保育業界以外で転職したい人は以下を参考にしてください。
個人的には保育士は保育業界での転職がおすすめです。わたしは幼稚園、保育園、こども園、支援センターで働きましたが、どこに行っても保育経験や保育スキルを活かせるので、すぐ仕事になじめます。
しかも、せっかく取得した保育士資格や幼稚園教諭免許を活かさないのはもったいないです。
一方他業界に転職するとゼロスタートですし、他業界の現実を知ると「保育業界の方が良かった?」と感じる人も多いと思います。
保育士以外にも子供と関わる仕事、保育資格や保育経験を活かせる仕事はたくさんあるので、興味がある人は以下を参考にしてください。
いまだに一つの職場に長く務めることが良いことで、転職をすることが悪いことだと考える人がいますが、それって健全な市場競争が起きてない状態ですよね。
「手書きって温かい雰囲気がするから大切!」と同じレベルの意味のない考え方だと思います。
あなたはいつまで無駄で効率が悪い仕事を正しいと言い続ける保育園、割に合わない仕事量で業務改善もまともにできない保育園で働き続けるつもりですか。
令和2年度調査によると、保育士の平均年収は370万円まで上がっています。それでも保育士に不満があるということは、給料が根本原因ではなかったということ……。詳しくは以下を参考にしてください。